西王母の原像 比較神話学試論

西王母の原像森雅子、慶應義塾大学出版会、2005年


p1
ラファエル・パタイによる女神の4つの特徴

  1. 純潔
  2. 乱交(無差別な性交)
  3. 血に飢えている
  4. 母性

p3

比較神話の理論には、系統論(他地域からの伝搬や影響)と現象論(汎世界的な史料集め、モデル-標準像を構築)。
p19
演化、例:原始中国→戦国→漢代→魏晋と時代によって西王母の性格・容貌が変化
p21
地母神、原始母神。原始母神という言葉を初めて使ったのは出口米吉『原始母神論』武蔵野書院、1928。それによると最初の母神崇拝は原始母神(普通母神)で、農業期に入り変転して大地母神になる。ただし、本書では区別せず総称して地母神という。
pp26-29
キュベーレー(クババ)@アナトリア→マグナ・マーテル@ギリシア・ローマ
前2000年紀のカッパドキア文書。ヒッタイトでは神々の一覧に記録あり。ヒッタイト滅亡後フリギュア人が民族神として崇拝。
  • 山岳の女神、山の母
  • 百獣の女主人
  • 両性具有(男根の切断により女性に)=対立物の結合、全体性の神秘、原初の統一体

pp39-44

アナト@シリアの都市国家ウガリット「バアルとアナト神話群」
両親はウガリット神話の最高神(天界にいる)→父エル、母アシェラ
  • 死の女神、流血を好む→血は大地にとって露、雨(p69)
  • 女兵士、男神のために闘う
  • 王権の守護者

pp52-58

イナンナ@シュメールのウルク→イシュタル@バビロニア、アッシリア
前3000年
  • 子宮、生命、多産、母
  • 天界の女王 天空神アンの娘→月神ナンナの娘→金星の女神(官能、逸楽、愛、性愛)
  • 聖婚:求愛の旅→奉納(貢ぎ物)→婚儀(性的結合)→宴会→嘆願と祝福
    実際の王、ドゥムジ、エンメルカール、シュルギなどもこれをおこなった。

神と地上の支配者との結婚はその後、女神と男神(マルドゥク神)との結婚になってゆく。

pp68-71
キュベーレー→アナト→イナンナ と、時代の順ではなく母神史
母権制→過渡期→父権制
pp84-88
メソポタミアの天地創造神話「エヌマ・エリシュ」の女神ティアマト
ティアマトおよび伝搬先における後継者たちの特徴
  1. 始原の存在(未だ空、地などがない)、至高の神、最高神、神々の母
  2. 水、海、湖など水神、蛇または龍の形態か半人半漁または半人半蛇
  3. 夫が子供を滅ぼす→怒って夫である男神を殺す、または去勢
  4. 怪物・怪獣を産む(怪物・怪獣の母)
  5. 最年少の子(マルドゥク)が勝利して最高神となり人間を創る。つまりティアマトは人間の想像に関与しない。
pp94-102
「エヌマ・エリシュ」はヒッタイト、ウガリト、フェニキア、イスラエルへと伝搬。
ヒッタイト:「フリ・ヒッタイト神統記」「クマルビ神話」
イスラエル:ティアマトに相当する女神は登場しない。マルドゥクがヤハウェ
カナン(ウガリト):「バアルとアナト神話群」に登場するアナトの母アシェラ(アシラト)
ヘレニズム時代のリシア:『シリアの女神』アタルガティス、『ビブリオテケ』デルケト
pp107-114
「エヌマ・エリシュ」はヒッタイト・ウガリット、ビブロスのフィロンによる『フェニキア史』を経てギリシアへ伝搬。ヘシオドスの『神統記』前8c。
女神ガイアが単性生殖または無性生殖で天(ウラノス)、山々、ポントス(海)を生む。
その後ウラノスと添い寝して、ティターンの12柱を生む。怪物も生む。
子供である怪物を腹の中に押し戻されたガイアはウラノスに復讐→子供たちの中でクロノスが成し遂げ父ウラノスの陰部を切断。
クロノスの妻は妹のレイア。二人の子をクロノスが呑み込んでしまったので、レイアは最後に生まれたゼウスをクレタ島に匿う。成長したゼウスが呑み込まれていた兄弟たちを解放しクロノスたちを倒して全世界の支配を確立。
pp114-116
ギリシアの先住民ペラスゴイ人の創世神話
万物の女神エウリュノメー。北風から大蛇オピーオーンが生まれ(エウリュノメーが単性生殖で生んだと言える)、交わって宇宙の卵=森羅万象を生む。
ギリシア侵攻以前に「エヌマ・エリシュ」が伝来していた可能性を示唆。
初期の母権制神話の万物の母は、どの時代どの地域でも2つ(3つ)に切り裂かれ、滅ぼされる。